もし将来、同性婚が法制化された場合、私たちゲイの暮らしはどう変わるのでしょうか。
現在世界各地で同性婚が合法化され、台湾では2019年5月にアジアで初めて法案が可決されました。日本でも「婚姻の自由を保障した憲法に反する」として国に対して一斉提訴が全国各地で始まっています。
少し先走りにはなりますが、現行の法律と照らし合わせながらゲイの立場に焦点を当てて見ていこうと思います。
※注意:この内容は2019年7月時点で調べた内容です。法律は改正に伴い変更されるものなので正確な情報が必要な場合は弁護士や法律の専門家などに確認しましょう。
結婚(婚姻)についてのルール
婚姻とは双方が自由な意思のもと「性的結合」を制度化したものである
まずは法的な定義から。
婚姻は、本人と配偶者の「継続的な性的結合」を基礎とした「社会的経済的結合」であると定義されています。
ゲイの立場や言葉に落とし込むと、お互い継続的に交尾(セックス)して、一緒に暮らして苦楽を共に生活する、という感じでしょうか。
この関係が社会的にも認められることが婚姻であり、民法で定められた戸籍法上の届け出をもって成立する関係です。
「権利」と「義務」について
一方で忘れがちなのが、権利には義務が生じます。例えば「社会的経済的結合」するということは、本人と配偶者がお互いに「一緒に生活する義務(同居義務)」「協力して助け合う義務(協力扶助義務)」 などが発生します。
そしてゲイにとっての盲点が「継続的な性的結合」。互いに継続的なセックスができるという「権利」の前提には、「貞操」を守る義務が生じます(たとえセックスレスであっても)。
現状だと、誰かと付き合いながら気軽に別の誰かと浮気をすることが可能です。もし婚姻制度が法制化された場合、婚姻後はパートナー以外との「性的結合」は不貞行為とみなされ慰謝料などが発生する可能性が出てくるということも理解しておくと良いと思います。
お互いの財産や費用について
婚姻にあたってA・B双方の財産や費用をどう扱うのかということについても、ルールに従って決められています(法廷財産制や婚姻費用等)。
- Aが婚姻前から持っていた財産+A名義の財産 ⇒Aの個人財産(特有財産)
例:A名義の給与・持ち家・家具など - A・Bどちらに権利があるか明らかでない財産 ⇒AB共有の財産と推定する
例:AとBの合意の上で購入した住宅、今因子 - 婚姻したことで生じる費用 ⇒A・Bが分担して負担する
例:居住費、共同の生活費 - 日常家事においてBが第三者と法律行為をした ⇒AもBとともに連帯責任を負う
例:Bが家具を買い入れる契約を結んで支払えない場合、Aが支払うことになる
なお、婚姻前に財産についてA・B間で契約に基づいてルールを決めている場合(夫婦財産契約)、この契約が優先されますが、ノンケの世界でもあまり利用されていないのが現状のようです。
離婚についてののルール
そしてこちらも盲点ですが、別れる時のことも意外と気にしていないのではないでしょうか。今までは、もし別れるとなったらLINEやメールで「別れよう」と一言いえば解消することもできました。
他方ノンケの世界では、昼ドラや芸能ニュースで男女カップルがが離婚をめぐって散々な言い争いや三角関係がもつれにもつれた泥仕合を演じたり報道されたりするシーンがあるように、ゲイカップルの離婚でも泥仕合の果てに心身とも疲弊するケースが出てくる可能性があります。
なぜそうなる可能性があるのか制度を振り返りながら見ていきましょう。
「離婚」とは、有効に成立した婚姻をお互いの同意のもと事後的に解消するものです。一度結合された「社会的経済的結合」と「継続的な性的結合」を分離させるわけですが、法的に結合されると、法的に分離する手続きが発生します。
いくつか挙げてみると・・・
- お互いに離婚に合意する必要がある
例:離婚届の各自の署名/捺印をして届出/受理 - 一緒の生活(衣食住)を分離する
例:一方または両方の引っ越し、住所変更、転出届等々 - 共有の財産を分離する
例:共同購入した住宅等の権利/金銭等による分離
もうすこしシンプルに言い換えると「離婚のための面倒な手続きやハードルがいくつも出てくる」ということです。
もしもこれらの手続きがうまくいかず、相手と離婚できない膠着状態に至った場合はさらに面倒な事態も発生します。
- 離婚が成立するまで権利と義務は継続する(同居義務・協力扶助義務 等)
- 離婚が成立しないと次のお付き合いも厳しくなる(貞操を守る義務)
- 離婚の手続きを弁護士を通じて家庭裁判所で判断を仰ぐ必要が出てくる
- 裁判所への申し立て等の面倒な手続きと費用が発生する
離婚するためのエネルギーもさることながら、離婚するために弁護士費用や裁判費用などの各種諸経費、時間的なコストが発生するという点でもお互いの負担が大きくなります。
婚姻(結婚)のメリット
権利と義務を先に記載したため内容が少し重くなりましたが、一緒に仲良く暮らしていければ多数のメリットはもちろん発生します。
普段の生活でのメリットについて
共同生活をすることで衣食住が一緒になるため、生活費の負担が軽くなります。仮に賃貸であれば二人で家賃が一人の時の2倍になることはあまりないので、居住費が圧縮できます。水道光熱費や冷蔵庫・洗濯機などの生活家電といった共通で利用するものも同様ですね。
そして普段の家事も一人分をするよりも二人分をまとめて行うほうが時間的コストも少なくなり、何よりも相手にも喜ばれるような経験ができます。特に洗濯や料理などは分担しやすく時間的なコストが圧縮されるのも大きなメリットです。
そして目が離せないのがお互いがお互いに協力しあえること。例えば片方が忙しくなったとき、かわりに家事をしてもらうことや、銀行・役所などの平日でしか行けない手続き手伝ってもらえること、病気になったとき課病してもらえる可能性も秘めています。
楽しさは分け合うことで2倍になり、苦しさは半分に分かち合えるという一人暮らしでは得られなかった心の充実が得られるようになります。
法的なメリットについて
家族になること
法的なメリットとしては、家族として関わることが無条件で受け入れられる点がゲイにとって大きいように思います。婚姻により配偶者はその相手と一親等となり、もっとも近い立場になります。例えば、相手が病気になったときに 無条件で相手を見舞ったり本人のかわりに医師に相談できます。ノンケにとっては当たり前に見えますが、これは婚姻の成立による「協力して助け合う義務(協力扶助義務)」 の観点から可能になっています。
現在パートナーとして共同生活しているゲイカップルでよく耳にするのが、 相手が入院してお見舞いに行っても門前払いされることです。お見舞いするだけでも、相手の家族の同意や、証明できる法的書類の作成が必要となり、しばしばメディアでも議論されています。
法的なサービスを受けられること
ノンケの結婚のメリットを検索するとよく出てきますが、金銭的なメリットも多くあります。片方が一定の年収以下の場合、もう片方が扶養している状態になります。そうすると税務上は配偶者控除や扶養控除を受けることができます(各種条件があります)。社会保険についてももう片方の社会保険に加入することになるため、実質的にもう片方支払う必要がなくなります。
とはいえ、現状であればお互いが職を持っていることが多いこと、2馬力で働いたほうが金銭面での生活が豊かになることから、それほど婚姻を通じた税務的なメリットは多くないようです。
以上、結婚(婚姻)と離婚についての基本的なルールから、権利と義務、メリットなどをゲイの視点から広くまとめてみました。
まだ先の話かもしれませんが、こんなことが当たり前の選択肢になると良いですね。
参考文献
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』>婚姻,結婚,離婚